急がばしゃがめ

コンクリートジャングルで合成樹脂のささやきに耳を澄ませては目を回す。人文系だけど高分子材料でご飯食べてます。。SF読んだり、ボードゲームに遊ばれたり。一児の父。

柞刈湯葉『人間たちの話』

柞刈湯葉『人間たちの話』を読みました。

あの『横浜駅SF』の作者初の短篇集とのこと。正直、横浜駅SF読んでないんですが、Twitterの軽妙な感じは好きなので買いました。

 

ハヤカワ公式に

https://www.hayakawabooks.com/n/n433b358e91c4

 

全編通じてゆるさの中にシャレとか皮肉が利いててなかなかに読みやすくてたのしい。SFをお固いジャンルだと思っているような人にも勧めやすい一冊だな、と。

 

以下、雑感。

 

・「冬の時代」

極寒の ポストアポカリプスもの。雪と氷に覆われて何世代か後の日本列島で”春"を求めて南下を目指す少年二人の物語。巻末の作者本人(?!)による解説で椎名誠『水域』のオマージュと言及してたけど、作中で雪上車に乗ったりとかはつくみず「少女終末旅行」を彷彿させますね。

 

・「たのしい超監視社会」

ジョージ・オーウェル『1984』のオマージュ。特高ではなく、国民同士が相互監視する社会…SNSとかYoutberとかを絡めながらうまく料理するなって感じ。現代のテクノロジーや社会情勢を前提としながら、ありうべき?監視社会を想像するというのはSFというジャンルらしい仕事だなと。

 

・「人間たちの話」

地球外生命を探索する研究者チームに属する科学者とその甥っ子との交流を描くハートウォーミングな話がメインなのだけれど、地球外生命や生命の定義をめぐる記述は既存の科学に地に足ついた感じ。そしてファーストコンタクトものにこういう切り口があったかという感慨。個人的にはこういう人情話?に弱いってのもありますが、本作で一番好きですかね。

 

・「宇宙ラーメン重油味」

”消化管があるやつは全員客”というポリシーの店主のラーメン屋SF。帯でこの短編を推しているのも納得のおもしろさ。

登場する珍妙な宇宙人とそれに供されるさらに珍妙なラーメン。連作になりそうな設定ではあるけれど、この宇宙人のデザインと理屈付けがたいへんそう。

 

・「記念日」

マグリットの「記念日」という絵画のように、ある日突然部屋に大きな岩が現れて…という不条理系、あるいはそれを淡々と受け容れる系小説。もう少し先の展開を読んでみたい。

 

・「No reaction」

透明人間を捏ねくり回すSF。作家デビュー前の作品とあって他よりもちょっと落ちるかなという印象。

 

柞刈湯葉、とりあえず横浜駅SFを読んでみようとと思いました。