急がばしゃがめ

コンクリートジャングルで合成樹脂のささやきに耳を澄ませては目を回す。人文系だけど高分子材料でご飯食べてます。。SF読んだり、ボードゲームに遊ばれたり。一児の父。

レジ袋の問題を考える/「ポリ袋はエコ商材」という主張の合理性とか

近所のスーパーやコンビニで買い物をしても、「7/1からレジ袋無料配布やめます」という案内を度々みかける昨今、いかがお過ごしでしょうか。

 

背景には7/1からの日本におけるレジ袋(プラ製買い物袋)有料化があるわけです。

このレジ袋の問題について、合成樹脂を扱うことで成形もとい生計を立てている人間として?脱線しながらも思うことをつらつら書いていきます。※個人の感想です。

 

まず、経産省がレジ袋有料化制度についてHPで告知しています。その表題が示すようにこの制度の主眼はプラごみ削減にあるわけで、有料化するというのは目的達成のためのアプローチとしては至極まっとうなものだと思われます。禁止すると何事もろくなことにならないというのは禁酒法はじめいろんな前例があるわけで。

※闇レジ袋取引とかは創作物のネタとしてはわりとおもしろいのでは。小噺のひとつでもかんがえられないかなとか。

 

経産省/レジ袋削減にご協力ください

https://www.meti.go.jp/policy/recycle/plasticbag/plasticbag_top.html

(しかしまあこれってそういう法律が新たにできたわけではなく、2006年に「容器包装リサイクル法」が改正されたのを受けて制定された省令を今回改正したものだそうで。行政権というのは強いですね。裁量が大きい。国民の生活に関わる部分を省令を変える、つまり行政の裁量一つで(一定の方向性はもとになる法律でキティされるとはいえ)随意にやれちゃうってのが恐ろしいですね。國分功一郎『来るべき民主主義』に関する行政権についての議論を思い出します。) 

meirin213.hatenablog.com

 

この流れはもともとプラだのなんだのは抜きにして使い捨てをやめてゴミを減らそうという昔からある流れに近年の海洋プラスチック問題がダメ押しの決め手となったという理解です。

もともとスーパーとかでのマイバッグ持参を推奨するような取り組みが僕が小学生の頃(20年以上前!)から少なくとも僕の地元ではあったわけで、自治体によっては何年も前から有料化されているところもあるわけでいまさら感もあるわけですが。

とはいえ、全国的に有料化制度が実施されるということで、それなりにインパクトのある話ではあろうかと思います。

各業界の動向をみるとハンバーガーや牛肉といったファストフードチェーン各社は軒並み無料配布を継続するようです。

有料化にも例外があって、上記経産省HPによると①(繰り返し使用を前提とした)厚手のもの、②生分解性プラ製のもの、③バイオマスプラを25%以上使用したものとなっており、各社がとるのは軒並み③のバイオマスプラ使用品ということになるわけです。

モスバーガーは晴天時紙袋、雨天時のみバイオマスプラ使用品になるようです)

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まあ各社③に集中するのは経済合理性による帰結ということなんでしょうね。②はそもそも生分解性プラ100%でフィルム化できるんでしょうか。。。

しかしまあバイオマスプラもその多くがどうせサトウキビとかトウモロコシといった食料と競合しうる素材がリソースでしょうからこれはこれで問題だと思うんですよね…つまり石油化学由来のプラが減ったかわりに世界的な飢餓が加速するなんてことは当然好ましくないわけで。

こういった原料となる商品作物生産時のCO2排出も射程にいれるとCO2排出とかエネルギー消費の点でどうなんでしょう。果たしてカーボンニュートラルと言えるのか。一般的なポリエチのレジ袋の方が意外とライフサイクルアセスメント(LCA)でのCO2排出が少ないみたいなことがあるような気もしなくもない(検証しているところがあれば教えていただきたい)

ちなみにコンビニ各社はバイオマスプラ使用品に変えつつ、有料化も実施するという方向で足並み揃ってるみたいです。世の流れですね。

 

それに対し、Twitterで話題になっていたのがこちら。

清水化学工業というレジ袋(ポリエチレン袋)メーカーの「ポリ袋は実はエコ商材」という主張のようです。

http://www.shimizu-chem.co.jp/message.html

 

Twitterでは割り箸バッシングを引き合いに出して、レジ袋も環境だとかエコだとか騒がしい(非科学的な)勢力によって不当な扱いを受けているのだ、というような主張が多く見受けられます。

(それにしても今回も思ったんですが、Twitterとかでこういう主張をしている、賛同しているのはネトウヨ的なアカウントが多いのはなんなんでしょうね。)

多少脱線しますが、割り箸については間伐材を使ってるからエコなんだ、むしろ行き場を失った日本林業間伐材が捨てられている…みたいなことが言われている/わりと信じられているわけですが、ほんとにそうなんでしょうか。結局は間伐材といえども日本品ではコストが合わないので中国や東南アジアで割り箸用に森林が伐採されているという状況の方が割り箸の価格を考えるとまだしっくりきます。

 

さて、話は戻ってこの清水化学工業のポリ袋はエコという主張に立ち返りましょう。

以下、同社HPでは「エコ商材」であることの13の理由を述べています。

こういうの列記すると科学的/合理的に思える人も多いんでしょうが、わりとふわふわしていて説得力があまりないなと思った次第。

("エセ科学"とか"陰謀論"とかが好きなのもネトウヨの特徴ですよね。自身の合理的判断力は抜きにして)

以下ぽつぽつ突っ込みます。

 

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1つずつみてみましょう。

 

1.ポリエチレンは理論上、発生するのは二酸化炭素と水、そして熱。ダイオキシンなどの有害物質は発生しない。

→理論上、という表現が気になります。工業製品である以上、原料は純粋無垢なポリエチレンのみ、というのは考えにくいです。フィルム加工性をよくする添加物とかも入っているのでは。そんなに環境負荷の高いものを使っているとも思えませんが、実測データで示せないあたりが主張としては弱いと思われます(後ろめたいものがあると勘ぐられてもやむをえないのでは)。

 

2.石油精製時に(ポリ)エチレンは必然的にできるので、ポリエチレンを使用する方が資源の無駄がなく、エコ。

→なにもポリエチレンの用途はレジ袋しかないわけではない。レジ袋はかなり身近な部類だと思いますが、それこそ汎用プラの中でも最も生産量が多いものですからレジ袋がなくなっても圧倒的ボリュームのあるポリエチ市場においても特に支障ないということになるのでは。(あるならポリエチレンメーカー=化学大手がロビー活動とかもっとやってるのでは)

 

3.ポリ袋は薄いので、資源使用量が少量で済む。

→何と比べて少量なのかが謎ですが、それを言うならポリ袋/レジ袋使わないに越したことがないようねと言われたら返す言葉がないのでは。

 

4.ポリ袋は見かけほどゴミ問題にはならない。目に見えるごみの1%未満、自治体のごみのわずか0.4%。

→「見かけほど」「目に見える」ってのが具体的にどういう状態を指しているのか不明瞭。自治体の0.4%と言ってもゴミはゴミなので減らせるものは減らしたほうがよい、という反論に対してはどう再反論するというのか。

「見かけほど…」という主張は裏を返せば「ポリ袋は(程度は低いが)一定のごみ問題になる」と認めていることになるので「ポリ袋はエコ商材」という主張と矛盾するのでは?(エコが環境負荷が相対的に小さいという意味で使っているのならば矛盾しないですが…そこは明確にすべきでしょうね)

 

5.繰り返し使用のエコバッグより、都度使用ポリ袋は衛生的。

→衛生的というのはまったくもってそのとおり。僕もこのコロナ禍で第二波、第三波がきてもおかしくない(そもそも本当に第一波は収束したと言えるのか?特に東京)状況で洗浄・消毒されずにエコバッグが使い回されることは大いに不安があります。

が、衛生的/非衛生的というのは「エコ商材」かどうかとはまったくの別問題なので、違う枠組みで主張すべきですね。これわかってないなら間抜けだし、わかってやってるならフェアでないですね。

 

6.ポリ袋はリユース率が高い。例)レジ袋として使用した後ゴミ袋として利用

→我が家でもレジ袋をキープしてゴミ袋に使ってるのでとてもうなずける話。ただゴミ袋に使ったらそれっきりだし、買い物袋として再利用しようもんなら直前の衛生的という主張を自ら瓦解させることになるし…まあ中途半端

 

7.都内ではサーマルリサイクルし、ごみ焼却燃料になり無駄とならない。

→サーマルリサイクルってほんとうにリサイクルと言えるのか…つまりナフサ→エチレン→ポリエチレン→ポリエチレンフィルム→ポリ袋→小売店→各家庭→ゴミ焼却施設というフロー全体でのエネルギー消費やCO2排出を考えたときにゴミ焼却のときにポリ袋ではなく、ダイレクトに燃料ぶっかけるのと比べてどっちが有効なのかっていうのも示さないと弱いのでは、という反論が考えられる。まあ直感的には買い物袋としても使えることを加味すればそんなに筋の悪い話じゃないと思うけど。

 

8.ポリ袋は紙袋の70%のエネルギーで製造可能。
9.ポリ袋の輸送に必要なトラックの量は、紙袋の7分の1。
10.ポリ袋の製造に必要な水の量は、紙袋の25分の1。
11.ポリ袋は紙袋に比べ、ごみにしてもかさばらない。
12.紙袋は再生できるものと再生できないものがある。ラミネート加工されているものや紐の種類によっては再生処理できない。
13.紙袋は間伐材とはいえ森林資源を利用。

→怒涛の紙袋ディス。紙袋については経済性でも環境負荷でもプラより優位性あるかは僕も疑問です。とはいえ、これは紙袋との比較の問題で「そもそも使い捨てやめてエコバッグ使おう」に対しては屈するしかないってことなのか?

あんまりポリ袋やめて紙袋にしますって店も多くないと思いますが…

(まあそこはポリ袋メーカーがわざわざこういう主張するくらいなので無視できないくらいに紙袋に切り替える/切り替えを検討する取引先とかがあるんでしょうね)

 

要するにあれやこれやと理由を並べ立てていますが、どの主張も説得力がいまひとつ。それっぽい主張を並べてればそれっぽく見えるだろうくらいのものにしか見えません。

(まあそれでも自分にとって都合の良い主張を探している人たちはついつい飛びついてしまうものなのかもしれませんが)

もちろんレジ袋メーカーからすれば死活問題だと思われますので叩かれるリスクを承知でやってるんだと思います。しかし、もう少し説得的な根拠を揃えるなり、違うアプローチをとるべきなのでは。

 

しかしまあ僕が小学生くらいのことには2030年くらいには石油がなくなるとかさんざん煽られていたように思いますが、ぜんぜんなくならない(意外と埋蔵量は多かったのか技術進歩で採算性のとれる範囲で採掘できるレベルが拡大したのか。たぶんどっちもなんでしょうが)。むしろ昨今は未曾有の原油安になったりしてるくらい。

 

とはいえ、長い目でみれば発電は火力から風力や太陽光といった再生可能エネルギーへシフトしていくでしょうし(エネルギーミックスは国によってまちまちですが、日本はいわゆる先進国の中で突出して火力比率が高いですが)、バイオプラに限らず、自動車のガソリンを筆頭とした石油化学燃料は代替燃料/合成燃料/e-Fuelといったカーボンニュートラルなものにシフトしていくんじゃないでしょうか。

そうなっていったときに当然考えられるのはこれまで分散していた原油コストが相対的に重くなっていき、レジ袋の原料であるポリエチレン(もちろんバイオポリエチではなく石油化学由来の方)のコストも上がってしまうでしょう。そうなったときに果たしてポリエチレン製のレジ袋をレジ袋として使えるのか(主にコスト的な意味で)、というのは甚だ疑問。まあまだまだ先の話でしょうが。

 

そういえば、このHPが引いている海洋プラスチックのデータをみるに、飲料用ボトルや漁網の多さが目を引きます。やはり汎用プラよりもPET(飲料用ボトル)やナイロン(漁網)といったエンプラ系が多いんですかね…すなわち耐久性の高さがそのまま残留・残存しやすさに直結しているということなのか。。。

 

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