シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』
シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』を読みました。
最初に言っておくと、「こんなに読んでてわくわくする小説はいくばくぶりだろうか」ということ。
ローカス賞(英語圏のSF・ファンタジー)を受賞してるだけあって文句なしのおもしろさ。
ヴィクトリア朝の19世紀末のロンドンを舞台としたある種のスチームパンク小説。
著者は英文学の研究者なのだそうだけど、そのバックグラウンドを活かして?、
英文学が誇るモンスターの娘たちがこれでもかとばかりに出てくる。
主人公のジキル博士の娘に、ハイド氏の娘、加えてメアリ・シェリー『フランケンシュタイン』からその花嫁、さらにH.G.ウェルズの『モロー博士の島』の設定を借りた猫(厳密にはピューマ)をベースにした獣人娘に、そして『ラパチーニの娘』から絶世の美女でありながら毒の摂取により毒を身体に帯びた毒吐き娘、とモンスター娘がよりどりみどり。
そこへ、さらにシャーロック・ホームズとワトソンまで登場してくる。
このモンスター娘たちがホームズとともに錬金術師協会なる謎の組織を追うという展開・・・
これだけ盛りだくさんの設定でおもしろくならないわけがない。
さらにこの本の魅力的なところが、本筋が進行する合間にキャラクターたちの掛け合いが入るところ。ここでキャラクター造形がただの奇抜な設定だけではなく、とても魅力的に作り込まれていることがわかる。この生き生きとした劇中劇というか幕間劇がとてもよく描かれている。
そして、モンスター娘たちの間の<関係性>。
主人公メアリ(ジキルの娘)とその妹(ハイド氏の娘)という異なるバックグラウンドをもつ二人が不器用ながらも姉妹としての関係を深めていく過程。また、猫娘キャサリンとフランケンシュタインの花嫁であるジュスティーヌの互いの信頼関係。
長編3部作の1作目と位置づけられており、原版ではすでに3作目まで出ているらしい。早々に2作目、3作目と邦訳が続いてほしいところ。